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Vol.5シャトー・メルシャン 吉田 健太/椀子(マリコ)ヴィンヤード 吉田 弥三郎

爽やかな風が吹き抜ける丘で、ブドウづくりの新たな挑戦が続く。

なだらかなつづれ織りが続く、坂道。やがて高く伸び上がった空が目の前にあらわれると、視界が一気に開け、ブドウ畑が一面に広がる丘にたどり着く。ここ、長野県上田市の丘陵地帯に広がる椀子(マリコ)ヴィンヤードは、シャトー・メルシャンの自社管理畑として生まれ、2003年よりブドウ栽培を開始した。爽やかに吹き抜ける風を受けて丘に立つと、ここが特別な場所だと実感できる。どこか異国を想い起こさせるこの特別な丘で、ブドウ栽培に取り組んできた“二人の吉田”に、それぞれの視点から椀子(マリコ)の足跡について語ってもらった。

※このインタビューは2015年8月に行われたものです。記事中の役職等は当時の内容を掲載しております。
※吉田 健太は2016年9月現在、メルシャン株式会社を退職しております。

シャトー・メルシャン 吉田 健太

2007年入社、椀子(マリコ)ヴィンヤードで8年間醸造用ブドウ栽培に携わり、本年4月に勝沼へ異動。
10代でワイン用ブドウの世界を志し、椀子(マリコ)ヴィンヤードでブドウ栽培のイロハを学んだ青年は今、新天地・城の平ヴィンヤードで新たな一歩を踏み出した。地元椀子(マリコ)で過ごした8年の歩みを自らの糧として、ワインづくりの未来につなげようとしている。

10代で、ワイン用ブドウの世界へ

椀子(マリコ)がブドウ栽培をスタートして4年目となる2007年、地元の高校を卒業して、ここに来た。応用生物学科で植物や生物について学び、自然に慣れ親しんだ経験からブドウ栽培に関心を持ったのがきっかけだった。「当時の椀子(マリコ)は、まだ未成熟の樹が多く、やっと成木し始めたところでした。」

飲酒できない10代でこの世界に飛び込み、ワインはもちろん、ワイン用ブドウを見たのも初めて。「わからないことだらけでした。当時は今よりも少人数で大規模な畑を管理していたので、どの作業もついていくだけで精一杯。とにかく足手まといにならないよう、よく寝て体調を整えていました。」

入社して間もない5月、ある出来事が起きた。「新梢が伸びてくる時期だったのですが、雹が降り、被害を受けたんです。初めて自然の厳しさを思い知りました。」

ブドウづくり、第一歩

椀子(マリコ)は、約20ヘクタールに及ぶ広い栽培面積を活かして、多様な品種の栽培を行っている。「シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、ピノ・ノワールなど、同じ環境でいろいろな品種を栽培管理できます。それが品種ごとの特徴を掴む上でメリットになります。」

経験を積み、栽培管理の仕方やブドウそのものに関する知識が身につくことで、自ずと品質について考えるようになっていく。「毎年、ブドウを見ていくうちに、ブドウの個性を活かしたワインにするには、どう栽培すればいいのかをイメージできるようになります。例えば、ソーヴィニヨン・ブランは香りが特徴の品種なので、香りの出方を大切にし、アロマを失わないように、収穫の時期を工夫します。」

椀子(マリコ)から城の平へ

9年目を迎えた今、椀子(マリコ)を離れ、勝沼へ異動し、城の平ヴィンヤードと山梨セラーの畑の管理に携わる。「ここはワイナリーがあるので、直接ワインに触れる機会が多い。ブドウ栽培だけでなく、醸造も含めて一つのチームとして動くので、完成したワインまでイメージできるようになりました。ディスカッションを通じて、こういうワインがつくりたいという醸造側の思いが伝わってくるので、いろいろな意味で刺激を受けます。」

1984年にスタートした城の平には歴史があり、ブランドとしての誇りと責任を負ったヴィンヤードでもある。「まだ覚えるだけで精一杯ですが、城の平のカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培管理を自ら手がけられるところにやりがいを感じています。」

椀子(マリコ)とともに

椀子(マリコ)で経験したことの一つ一つが、今の自分を形づくっているという。8年間、毎年、母校の出身学科の生徒たちを呼んで「ブドウ栽培実習」を行ってきたのも、自らが培ってきたブドウ栽培の面白さ・厳しさを伝えることで、モノづくりを志す人が一人でも増えてほしいという願いからだった。「生まれ育った椀子(マリコ)の土地でモノづくりをスタートできたのは、自分にとっては幸せだったと思います。だから、若い世代にも同じ志の人が増えてほしい。いずれは、自分の好きなピノ・ノワールを、地元の椀子(マリコ)で手がけたいと思っています。18歳からこの世界に入ったので、70歳まで続けられたとして52回。そのうち、何回成功できるか、ヴィンテージが出せるのか、そう考えたら、今からできることを積み上げていかなければなりません。」

土地を知る、風土を楽しむ、ワインの魅力

ワインを楽しめる年齢となり、魅力が少しずつわかってきた。「ワインはその土地から生まれるもの。もちろん飲んで楽しむというのはありますが、ワインを通じてその土地を知る、土地の恵みを楽しむ、風土を楽しむ、そういう魅力があります。作り手としては、そこでしか獲れないものに携わる喜び、そこに関わる人のつながりが拡がっていく魅力もあります。ワインを、その土地で獲れた食べ物と一緒に楽しむのは、本当の贅沢。幸せなことだとつくづく感じます。」

いつか自らの名前を記したワインをつくりたい。「キュヴェ・ケンタ」—その日に向けて、今を懸命に生きる。