Makers
ワイン造りは減点法。ブドウの出来映えが味を決める
弦間と勝野……全く異なる経歴を持つ2人のヴィンヤード・マネージャーたち。しかし、彼らは口をそろえてこう語る。「ブドウをワインに変えることだけがワイン造りではない」と。それはどういう意味なのだろうか。
栽培と醸造、双方を手がける勝野は言う。「ワイン造りは減点法なんです。ベストなタイミングで収穫されたブドウが100点だったとして、その持ち点をいかに減らすことなくワインとして醸造してボトルに詰め込むことができるか。それが勝負なんです」と。つまり、ブドウの質が高くなければ、ワインがそれ以上になることはないということなのだ。ワイン造りは、限りなく農業に近い仕事。2人のヴィンヤード・マネージャーたちは、そのことを誰よりも深く理解している。
農家とワイナリーがともに臨む「樽選抜」
だからこそ、『シャトー・メルシャン』では、ブドウとワインの関係、ワイナリーと農家とのコミュニケーション、栽培と醸造との距離感を少しでも縮め、一体化させる数々の試みを進めてきた。その代表的な取り組みのひとつが「樽選抜」だ。
「樽選抜」とは、その年に完成したワインを産地、品種、樽ごとに抜き出して、出来映えをテイスティングしながら、投票や意見交換を行い、ブレンドの組み合わせなどを検討していく重要な工程。『シャトー・メルシャン』の社員はもちろん、各地から集まった契約農家の栽培家たちも参加する一大イベントだ。
「樽選抜をはじめたのは2008年。それまではワイナリーの造り手だけで行っていたテイスティングに、農家の方々を招くようになったんです。畑毎に適熟を見極めて別々に収穫して醸造する、仕込み分けという造り方を導入したのがきっかけでした。適熟での出荷をお願いするからには、その結果がワインにどうあらわれるのか、きちんと農家の方々にフィードバックしていこう。という想いからスタートした取り組みです」と語る弦間。当初はなかなか理解が得られず、参加する農家も少なかったものの、現在では徐々に参加者数も増えているという。
農家とワイナリー……高まる一体感
「これまでは味の“良い”“悪い”の違いしかなかった。でも、今年は質に関しての底上げができていて、きちんと、“個性”による違いが現れていると感じました」。これは、「樽選抜」に参加したとある契約農家の若き栽培家のコメントだ。そこには、自分たちがブドウ栽培を通じて、『シャトー・メルシャン』というワイン造りに関わっているという、確かな熱意が感じられる。
「元々、“栽培したブドウがどんなワインになるのか?”という関係性を意識する機会が少なかった農家の方々が、ブドウの出来映えと、ワインの味との結びつきをリアルに体験する。そこから課題を導き出し、他の地区の農家と情報交換を行い切磋琢磨する。そして、ブドウ栽培を通じてワイン造りに積極的に参加する。ワイナリーとブドウ畑が物理的に離れていたとしても、その距離を極限まで縮めていく試みが、私たち『シャトー・メルシャン』と、農家の方々との二人三脚で進められているんです。私が映画で観て心を打たれた、畑とワイナリーの関係性が実現しつつあると実感しています。実際、自分が育てたブドウから造られたワインが選抜されることに喜びを感じてくれる方が増えましたね。季節が近づいてくると“樽選抜はまだやらないのか?”って聞かれることもあります。みんな、ブドウとワインの出来映えを強く意識してくださっているんです」。そう語る勝野の表情には熱意が漲っていた。
「ワインの味を共有することが、ブドウ栽培の方針に直結する。そんな理想的な流れが生まれはじめているんです。とは言え、私たちの取り組みは、まだまだ発展途上。もっと多くの農家の方との協働関係を深めて、一体感の高いワイン造りを進めていきたいですね」と、話す弦間の眼差しは、さらなる未来を見据えているようだった。2人のヴィンヤード・マネージャーたちは、これからの『シャトー・メルシャン』の姿を夢見ながら、今日もまた畑に出て、自然とブドウ、人とワインと向き合い続けている。
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